世界の図書館 夢を育むミュージアム



japancontents_academy updated 2021-05-22

新刊紹介

世界の図書館

夢を育む知のミュージアム

世界の14ヵ国47の図書館を巡る知の旅

博物館と図書館の起源であるアレクサンドリア図書館、大英博物館を起点に、アメリカ、ロシア中国、アルゼンチン、ブラジルの図書館を経て、済州島の小さな風の図書館を巡る時空を超える図書館の旅から未来のヒントを探す。未来を育む場、知を創造する図書館というまなざしで、人類の歴史を見直してみると、私たちがいま生きている地球社会は、図書館がつくりだしてきたという事実がうかびあがってくる。図書館とは、昔もいまも、未来のための夢を育む知のミュージアムである。

『世界の図書館 夢を育む知のミュージアム』から未来がみえる

図書館からみた世界の歴史と未来

 未来のための図書館のまなざしを持った韓国の知の哲人であり、社会デザイナーであり、さらには政治家でもあり、そして大韓民国国会図書館長(執筆当時)である著者は、人類の歴史と未来に深く関わってきた世界の図書館を訪れ、そこで繰り広げられた知のドラマにまなざしを向け、図書館からみた世界の歴史の再構成に挑戦した。
 本書は、「世界図書館紀行」というスタイルで、世界の14カ国、47館の図書館を著者がめぐり、そこで出あった知の感動を記録するという形式で編集されている。

時空を超える世界の知の図書館紀行

 博物館と図書館の起源にさかのぼるエジプトのアレクサンドリア図書館と近代の科学と産業が誕生する舞台となった大英物館を起点に、ミュージアムの思想が深く根づいているヨーローッパの図書館、現代の図書館大国アメリカ、共産主義革命のインキュベーション装置となったロシアと中国、北朝鮮の図書館、新しい図書館による国づくりを目指す中南米諸国ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイなどの図書館、そして日本を経て、最後は自らの国の韓国の図書館の知の旅に向かう。

ふるさとの小さな図書館へのまなざし

 ここでは、それまでの世界の図書館で出あった感動をヒントにして、韓国の図書館を再評価し、そして未来の図書館像を提起し、最終的には、コミュニティに愛を注ぎ、未来へ志を持って生きる若い夫婦が運営する済州島の小さな「風の図書館」で完結する。
 著者は、図書館とそこに納められている本との対話をとおし、想像力をはたらかせながら、それぞれの図書館で繰りひげられている知のドラマをうあびあがらせている。著者が訪れ、思索した世界の14ヶ国47館の図書館は、まぎれもなく夢を育む知のミュージアムで、人類の歴史にとって重要な役割を担ったそれで、図書館未来学のメルクマールである。

図書館と本を糸口に生きる本質を探る旅

 私たちは、本書を読むことで、「図書館とは何か」、そして「人間とは何か」「本とは何か」という本質的な問題を知ることができる。そのような学びをとおして、「幸せとは何か」について、そして私たちの未来をどのように描くべきかというヒントを得ることができる。

著者:柳 鍾珌(ユ・ジョンピル)
ソウル市冠岳区長、韓国国会図書館長。ソウル大学哲学科業。
社会デザイナーであり、政治家でもある。パリの町を散策していた時、小さな古本屋や図書館で子どもたちが元気に活動している姿をまのあたりにする。そこでの出あいをヒントに、まちのすべての子どもたちに知と文化を降り注ぐ環境をうみだすことで、貧困と格差の社会問題を解決できるのではないかという社会デザインを構想する。そして、その実現のために2010年に格差と貧困を抱えた冠岳区の区長に出馬し、就任する。

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塚原正彦監修、株式会社ジェイテーシーアイ翻訳
A5判 484ページ、定価は2500円(税別)
一般社団法人日本地域資源研究所より、2016年9月に刊行

図書館は未来の夢をデザインするミュージアム

 シンボルを操ることができる人間は、想像力をはたらせることができる唯一の生命である。それゆえ、想像の翼をひろげて、時空を超えて旅をすることができ、未来を自らのチカラで描き、いまを変えることができる。それは、神が人間に与えた最高の贈り物である。神からいただいたそれらのチカラを磨きあげ、未来を育む最高の舞台が、図書館である。
 なぜなら、図書館には、過去の記憶がきざみ込まれた宝物やその記憶が記録された本がたくさん集められているからである。それに加え、人とモノ、情報が出あうための魅力的な空間がデザインされているからである。
 人類の歴史をふり返ってみると、想像力があふれ未来をデザインしようという志を抱いた人々が、積極的に図書館にかかわり、図書館を舞台に新しい未来を創造する活動に挑戦してきたことがみえてくる。誰もが知っている古代史のスーパーヒーローであるアレキサンドロスⅢ世、クレオパトラⅦ世、アントニウスらは図書館で知をみがきあげた時代を創造する哲人であり、政治家であった。そして、彼らが図書館に情熱を捧げたエピソードは、映画やドラマの世界に登場し、今日でも人々に語り継がれている。
 伝説的なアメリカ大統領であったリチャード・ケネディーは、本と図書館を敬愛し、図書館にその情熱を注ぎ込んだ文化の政治家であった。フランスのミッテラン大統領は、自らプロジェクトの陣頭指揮にたち、知の空間を描きあげ、自分の名前までつけた国立図書館を創設して、この世を去った。共産主義という社会思想をきわめ革命に成功し、社会主義国家の樹立を成し遂げたレーニン、毛沢東、そして金日成という革命家たちは、いずれも図書館で知をみがきあげた哲人で本と図書館に精通し、あまりにも先進的な図書館政策を自ら描きあげ、それを実行している。
 未来を育む場、知を創造する場のまなざしで、人類の歴史を見直してみると、私たちがいま生きている地球社会は、図書館がつくりだしてきたという事実がうかびあがってくる。図書館とは、昔もいまも、まぎれもなく未来のためのまさに夢を育む知のミュージアムである。

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『世界の図書館』で紹介されているおもな図書館

アレクサンドリア図書館



紀元前3世紀に、見知らぬ土地で出あった人、モノ、情報を集め、それらを記録し、その成果を共有するために創設されたムセイオンが、博物館と図書館の起源といわれている。 アントニウス、シーザー、クレオパトラなどが知を磨き、活躍する舞台となったムセイオンは何度も消失し、再建されている。現在あるそれは、2002年にユネスコを中心にした世界中の支援で再建された。

大英博物館リーディングルーム



1973年に正式に大英図書館(The British Library)が設立されるまで、大英博物館図書館といわれていたこの部屋で、ダーウィンが『種の起源』で提起した「自然選択説」を育み、マルクスとエンゲルスを引きあわせ、共産主義を誕生させる舞台ともなる。
ガンディー、レーニン、南方熊楠など近代の知の巨人たちが、この部屋に通い、本や資料と出あい、想像力と創造力をみがきあげた。

ロシア科学アカデミー付属図書館



1714年ピョートル大帝の勅令によって、サンクトペテロブルグに、建てられた図書館である。レーニン、パブロフなどの知の巨人が通いつめ、ロシアとソ連の文化の苗床となった。第二次世界大戦中に、ドイツ軍によりレニングラードが900日間包囲された際に、零下30度の中、窓ガラスもない状況で閉館せず、移動図書館まで実施していたそれは伝説として語りつがれている。