図書館は未来の夢をデザインするミュージアム
シンボルを操ることができる人間は、想像力をはたらせることができる唯一の生命である。それゆえ、想像の翼をひろげて、時空を超えて旅をすることができ、未来を自らのチカラで描き、いまを変えることができる。それは、神が人間に与えた最高の贈り物である。神からいただいたそれらのチカラを磨きあげ、未来を育む最高の舞台が、図書館である。
なぜなら、図書館には、過去の記憶がきざみ込まれた宝物やその記憶が記録された本がたくさん集められているからである。それに加え、人とモノ、情報が出あうための魅力的な空間がデザインされているからである。
人類の歴史をふり返ってみると、想像力があふれ未来をデザインしようという志を抱いた人々が、積極的に図書館にかかわり、図書館を舞台に新しい未来を創造する活動に挑戦してきたことがみえてくる。誰もが知っている古代史のスーパーヒーローであるアレキサンドロスⅢ世、クレオパトラⅦ世、アントニウスらは図書館で知をみがきあげた時代を創造する哲人であり、政治家であった。そして、彼らが図書館に情熱を捧げたエピソードは、映画やドラマの世界に登場し、今日でも人々に語り継がれている。
伝説的なアメリカ大統領であったリチャード・ケネディーは、本と図書館を敬愛し、図書館にその情熱を注ぎ込んだ文化の政治家であった。フランスのミッテラン大統領は、自らプロジェクトの陣頭指揮にたち、知の空間を描きあげ、自分の名前までつけた国立図書館を創設して、この世を去った。共産主義という社会思想をきわめ革命に成功し、社会主義国家の樹立を成し遂げたレーニン、毛沢東、そして金日成という革命家たちは、いずれも図書館で知をみがきあげた哲人で本と図書館に精通し、あまりにも先進的な図書館政策を自ら描きあげ、それを実行している。
未来を育む場、知を創造する場のまなざしで、人類の歴史を見直してみると、私たちがいま生きている地球社会は、図書館がつくりだしてきたという事実がうかびあがってくる。図書館とは、昔もいまも、まぎれもなく未来のためのまさに夢を育む知のミュージアムである。
『世界の図書館』で紹介されているおもな図書館
アレクサンドリア図書館
紀元前3世紀に、見知らぬ土地で出あった人、モノ、情報を集め、それらを記録し、その成果を共有するために創設されたムセイオンが、博物館と図書館の起源といわれている。 アントニウス、シーザー、クレオパトラなどが知を磨き、活躍する舞台となったムセイオンは何度も消失し、再建されている。現在あるそれは、2002年にユネスコを中心にした世界中の支援で再建された。
大英博物館リーディングルーム
1973年に正式に大英図書館(The British Library)が設立されるまで、大英博物館図書館といわれていたこの部屋で、ダーウィンが『種の起源』で提起した「自然選択説」を育み、マルクスとエンゲルスを引きあわせ、共産主義を誕生させる舞台ともなる。
ガンディー、レーニン、南方熊楠など近代の知の巨人たちが、この部屋に通い、本や資料と出あい、想像力と創造力をみがきあげた。
ロシア科学アカデミー付属図書館
1714年ピョートル大帝の勅令によって、サンクトペテロブルグに、建てられた図書館である。レーニン、パブロフなどの知の巨人が通いつめ、ロシアとソ連の文化の苗床となった。第二次世界大戦中に、ドイツ軍によりレニングラードが900日間包囲された際に、零下30度の中、窓ガラスもない状況で閉館せず、移動図書館まで実施していたそれは伝説として語りつがれている。